たかなの登山

「次に登る方の役に立つ登山情報」「登山エッセイ」を書いています。 基本ソロで登っていて、概ねコースタイム通りでちょっと早かったり遅かったりくらいのペースで歩いています。

剱岳(No. 48)

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今回の山行記録

  憧れの剱岳+立山三山【2023年7月下旬】 / たかなさんの剱御前山真砂岳(富山県)別山(富山県)の活動データ | YAMAP / ヤマップ

深田久弥日本百名山」をリスペクトして、登った百名山についてエッセイを書こうと思います。No.は百名山に準拠しています。

日本の一般登山道の最難関ルートの一つ、ということは聞いていた。だからこそ憧れもあったし、自分が向かってもいいものかという不安もあった。もちろんこれまで岩場もいくつか歩いたし、鎖場もいくつか経験した。経験談も読み、YouTubeで岩場の動画を見て予習した。いつかは剱岳へ行きたいとは思っていた。

もっともっと経験を積んでから登るべき山だと思っていた。その考えが変わってきたのは登山の時の膝の痛みで加齢を感じたことがきっかけの一つだった。いままで登山中に膝が痛くなったことなんてなかったのに、膝が少し痛むようになってきたのだ。年を取ると一般には体力もバランス力も落ちてくるといわれる。なるべく若いうちに登ったほうがいいのではないかと思い、チャレンジしてみることを決めた。

そうと決心できたら、剣山荘の予約だけ取ってしまった。予約はメール一本で取れてしまって、あんなに逡巡したのに…と拍子抜けした。

それからは長い距離を歩ける体力をつけるため、瑞牆山金峰山雲取山をトレーニングとして登った。岩場の練習として旅行のついでに石鎚山にも登った。経験者に話を聞いて簡易ハーネスも用意した。

そうこうするうちにも時間は進む。出発の1週間ほど前にバスや新幹線を予約し急いで荷物を準備する。バスはネット予約では取れなかったが、ダメ元で電話してみたところ最後のひと席をとることができた。

バスには街の格好で乗っている人もいた。室堂へのアクセスはそれほど良いのだろう。車内では運転手さんのガイドがあった。曰く、立山有料道路は日本で一番高い有料道路だと言われているとか、有料道路の入り口で水を流しているのはバスのタイヤについている外来植物の種を洗い流すためであるとか。

日本一の落差の称名滝や弥陀ヶ原の湿原など景色の目まぐるしく変わるのを楽しく眺めているうちにバスは室堂に着いた。連日の猛暑のせいか、雪はいつもより少ないらしかった。それでも室堂から見る立山連峰には雪が残り空の青と雪の白のコントラストが美しい。

まずは初日の目的地、剣山荘へ向かう。雷鳥沢を通って剱御前小屋まで2,3時間登り、そのあと1時間ほど下ってやっと到着する。なかなかに遠いから、ご飯が食べられて眠れたら十分ありがたいと思っていたがその期待は大きく裏切られる。なんとシャワーが浴びられ、飲用の水は無料、部屋は清潔だしご飯はおいしい。ゆっくり身体を休めることができた。

翌日は朝4時半ごろに発つ。天気は晴れの予報。

前剣に向けしばらく登る。振り返れば剣山荘は小さく見え、昨日越えた剣御前小屋の鞍部は緩やかに広がっている。別山や剣沢がゆっくりと朝日に照らされ、紫から赤へ染められていく様はずっと見ていられるほど美しい。

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視線をこれから登る剱岳へ戻す。剱岳日本百名山中では、「北の俊英」「一つの先端を頂点とする」などと紹介されている。だからてっきり槍ヶ岳のように鋭く天に聳える峰なのかと思っていたが、間近で見ると想像よりずっと丸くどっしりとしている。その荘厳さは、空が白んでいくにつれ徐々に明らかになる。急峻な岩が連なる雄々しい山だ。果たしてここに登れるのか?と思わないでもない。

前剣を過ぎてからは高度感があって落ちたら軽傷では済まないだろう鎖場が続く。どれくらい時間がかかったのか覚えていないが、ひとつひとつ越えていくとやがて山頂へたどり着いた。

山頂は予報通り晴れていて、遠くに富山と日本海が見える。こっちを見れば薬師岳、あっちを見れば北アルプス。山々の中心にいるかのような感覚を覚えた。これまで後立山連峰の縦走なんて考えたこともなかったが、実際に峰々を見るといつかあの尾根筋を歩きたい、と思ってしまうのが不思議だ。

YouTubeで予習していたからか、思ったほど下りの鎖場は怖くなかった。むしろ下りの長さが堪える。

一服剱を過ぎて剣山荘に向かう途中で外国人の親子とすれ違った。もうすぐですね、と声をかけたが伝わらなかったようだったので英語で伝えようとした。It takes very very…まで言っても特に反応がなかったが、詰まりながら … few minutes と言うと言い終わらないうちくらいに2人から “Yes!!”と言葉があった。それほどまでに達成感のある長さだった。

無事に下り終え、剣沢のテント場にツェルトを張った。この頃には剱はすっかり雲に隠れてしまった。

翌朝、テントがひどく結露していたので乾かしている間、朝の光が剱岳にかかる様子をなんとなく見に行くと、近くにいるおじさんと立ち話になった。聞けば百名山はとっくの昔に登ったとのこと。こういう話を聞くと、百名山完登を達成しても何者かになるわけではなく、歴代の百名山を完登した方々の末席に加わるだけだ、と改めて思う。

太陽が登りきる前に剣沢テント場をあとにしながら、以前読んだ本を思い出した。「きっと人間には二種類ある。山を見て、登れるはずだと信じる人間、登れるはずがないと諦める人間。前者が山屋で、後者が山好きだ。」(「リュックをザックに持ち変えて」(唯川恵) より引用)

わたしはどちらだろう。剣沢テント場をあとに歩き始めたときは一瞬だけ山屋だったかもしれない。

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