たかなの登山 登山記録のエッセイ、お役立ち情報など

日本百名山をリスペクトして、登山記録をエッセイとして残したいと思います。

雲取山 (No.66)

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今回の山行記録

【7月】三条の湯経由雲取山 / たかなさんの小雲取山(山梨県)雲取山の活動データ | YAMAP / ヤマップ

深田久弥「日本百名山」をリスペクトして、登った百名山についてエッセイを書こうと思います。No.は百名山に準拠しています。

雲取山は私にとっても思い出のある山だ。深田が「高尾山や箱根などのハイキング的登山では物足りなくなった人が、次に目指す恰好な山」として雲取山を紹介しているが、私と雲取山の関係もまさに同じであった。

学生時代、バイト先の先輩に連れられてユーシン渓谷などハイキング的登山を始めてみた。その後東京近郊ですこしレベルが高い山で…とステップアップのため登ったのが雲取山だった。標高年の2017年に登ったことをよく覚えている。ルートは深田が「一番やさしい普通のコース」と紹介する三峯神社から登山を始めるルートであった。不思議なことにどこに泊まったかは思い出せないのだが、雲取山荘ではなかったから、いまはなき奥多摩小屋なのではないかと思う。

2017年以降はコースの長さゆえに頂上には立たず、付近の七ツ石山や鷹ノ巣山などに登るのみであった。今回夏のアルプス登山の前に1泊2日程度で近場で…と山を探していた際、そういえば…と三条の湯を思いついた。前日に電話して聞いてみたところ、テント場の利用にも予約が必要ということでその場で予約をして三条の湯に泊まることになった。

急いで荷物をまとめ、ルートを詳しく調べる。登山口から三条の湯までは4時間を見ておけばよさそうだった。ゆっくり出発しても問題がないと判断し、翌日は8時頃の電車に乗って奥多摩へ向かった。お祭バス停までバスに乗り、近くの登山口から登り始める。三条の湯までは3時間ほど林道を歩き、その後40分ほど登山道を歩くルートである。沢沿いに登っていくため、「これが東京都の水源か…」と都市と森林の関係を考えながら歩くことのできる涼しくて気持ちの良いコースである。しかし、10km弱といかんせん距離が長い。途中途中休憩を挟みながらゆっくり進むのがいい。

3〜4時間ほど歩くと三条の湯に到着する。三条の湯はいいと山行記録にいくつか書かれていたが、行ってみてたしかにそうだ、と納得した。まずそのロケーションが良い。沢沿いの少し開けたところにある小屋で、なんとも気持ちの良い場所にある。また小屋の写真や歴史も食堂で見ることができ、これがおもしろい。初代のオーナーの顔写真とともに「親切・清潔」と山小屋のモットーが掲げられたり、現在のオーナーが「雲取のロバート・デニーロ」と紹介されている写真が入ったアルバムを見られたりとなかなか刺激的である。山小屋が始まった際の写真もふんだんにある。三条の湯について話す際には、もちろん温泉も忘れてはいけない。泉質もよく、疲れた身体を伸ばすことができる。窓の外の純度100%の緑を見ながら入る温泉、これ以上の贅沢があろうか。

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さて、この山行では同じ方と何度かすれ違い話すことがあった。彼をULおじさんと呼びたい。はじめてULおじさんと会ったのは三条の湯へ向かう林道の終点であった。挨拶をし、その後お連れの方と2人で三条の湯に向かう登山道へ向かっていった。その後登山道上で休憩している2人組に再会した。聞けば三条の湯まで行くとのこと。また後ほど、と声をかけて先へ向かった。三条の湯では案の定テント場で一緒になった。ULおじさんが軽量のテントを張る横で私がよれよれのツェルトを張り(三条の湯のテント場は土に小石が多くペグダウンが難しい)、しばらくして顔を合わせたところ「僕もそれ(ツェルト)をずっと使っていたんです」と話す。以前テントを担いで登ってバテてULを志向するようになったということだった。しっかりと自立するでもないツェルトの不足さやわびしさが良い、自立する立派なテントが少しつまらなく思えると話していた。立派なテントを横目にいじけるような気持ちでツェルト泊を行っていた私にとっては光明が差すような話だった。同行の方は大きめのテントを持ってきたので重く、それで途中でバテてしまったということだった。

早めに就寝し翌日は4時半に起きたが、その際にはULおじさん一行の跡はすでになかった。想定より長く時間がかかったので早めに出たのだろうか。挨拶をしたかったがしょうがない、私も早めに出ないと、と思い雲取山へ向かった。三条ダルミまでは長い長い登りが3時間弱続く。樹林帯が続くため景色もあまり変わらず、きつい。ULおじさんのことを忘れた頃、なんと途中でその一行に会った。お連れの方がバテて引き返すとのことだった。やはり荷物は軽量化するに限る。少し心配だったが、まだ時間も早かったので大丈夫だろうと思い別れた。

前日も三条の湯まで標高を上げたのになぜまだ登るんだ、と悪態をつきたくもなるころに三条ダルミに着く。富士山がきれいに見えて休みごたえがある。休憩し、もうすぐ山頂だと思って登るが、この上りが一番の急登だった。息も切れ切れになって山頂にたどり着く。

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はじめて雲取山に登った際は頂上から見える石尾根の長さや眺めの素晴らしさに時間を忘れてしばらく立ち止まってしまった。時間を経て再び訪れた石尾根は思い出よりも短く感じた。最初に登った頃よりも登山経験を積み、悲しいかな新鮮な気持ちで見ることができなくなってしまったのかもしれない。しかし富士山や奥多摩の山並みは思い出通り美しく、富田新道との分岐まで景色に見惚れながら石尾根を歩いた。分岐では、いつか深田が歩いた富田新道も歩きたいと思いながら鴨沢方面へ慣れたルートを降りた。

ちなみにULおじさんとそのお連れの方には奥多摩駅でたまたまお会いすることができた。三条の湯からも大変であったという。